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今までの晴天が嘘のようにどんよりした天気だ。スコットも、「タツ!週末は雪が降るぞ。」と、にやにやしながら言っている。いんや。ムースに会うには、少し湿った方がいいかかも知れない。自分を奮い立たせて出発する。
送ってくれたブライアントにお礼を言って、独りになる。1人ではなく、独りである。そんな気分だ。いきなり寂しくなった。ソロが始まった気分だ。そう言えば、大学の頃から、行くとすれば今の女房と一緒に歩いていて、本当に独りで歩いたことはそれ以来ないような気がする。寂しいはずだ。寂しいという気持ちが新鮮で何となく心地よい。
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雨の中、シェルターに着いたら、何と居心地の良さそうなシェルーターではないか。ドアはないものの、中2階はベッドのようになっていて、その気になれば、10人以上は泊まることができる。今日はここで独りなんだぁ。と、感慨に耽っていると、アベックがやってきた。いちゃいちゃしながらお昼ごはんを食べて出ていった。まずいな。もしかしたら、今日他に泊まる人がいるかも知れないなぁ。と思っていると、あれよあれよという間に、7人が集まった。私を入れて8人である。寂しい沼のシェルターは急ににぎやかになり、華やかな女性の笑い声と、骨太い男性の笑い声でいっぱいになった。「タツ!お前もやれ!」と、ウイスキーが回ってくる。これでは、ムースが出るはずもない。 |
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楽しい夜だったが、目的がいきなり2つともキャンセルになってしまって、正直少しがっかりしてしまった。
OBSのことを話したら、「オウ。友だちにそこで働いているやつがいるぞ。」とかえってきた。やっぱり、山の仲間はどこかでつながっている。女性は、「タツ。OBSのみんなは親切か。」と聞いてくる。「親切だよ。」と答えたら、「良かった。山の連中は、自然が好きで人間が嫌いな人が多いから、心配だったんだ。」と言ってくれる。嬉しくなってしまった。この女性の名前だけはメモに書き残した。
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雨はやんでいる。雲も昨日より薄くなって、青空が隙間から見えている。昨日の女性が、「タツはムースに会いたいんだから、みんながムースになりましょう。」と呼びかけてくれて、ノリのいい仲間がムースのまねをして写真のバックをにぎわせてくれた。
独りにはなれなかったが、英語から離れられなかったが、何となくほかほかした気持ちになってその日を出発できた。
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| 今日は5マイル(約7.5km)。ほとんど稜線のアップダウンだ。早く着いても時間をもてあますだけなので、踏みしめるようにのんびり歩いていく。稜線から見る景色は、上空を雲が覆ってはいるけれども、吸い込まれそうな壮大な景色だ。充分楽しんで、昼食にする。昼も贅沢にストーブを出して、買い出ししてきたライスを炊く。うまい!うますぎる!余るほどのゴープ。そして、好きなときに食べられる米。何と贅沢なひとときだろう。寂しさというスパイスも効いて、感覚が敏感になっていく。 | ![]() |
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雨の音で目が覚めた。零下3℃。冷たい雨だ。まだ雪にならないのか。
暖かい朝食をゆっくり食べて、9時前に出発した。今日は、下りの8マイル(約12k)だ。3時に林道の出口で迎えが待ってるはずだから楽勝のはずだ。が、甘すぎた。雨で稜線は濡れて、靴が踏ん張れない。滑るのだ。昨日から痛み出した膝が、不安定な下りに悲鳴を上げる。ロッククライミングさながらの岩場もあって、更にスピードを弱める。稜線の岩場は風が吹き上げて風上に顔を向けられない。12時を過ぎても、行程の半分以上残っている。とにかく急いだ。何度もこけながら、やっとの思いで数分前にピックアップ地点に着くことができた。この日は、カメラを出す余裕も、バックを降ろして昼食を食べる余裕もなかった。
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